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ロールズが目指す『秩序だった社会』とは? 『正義論』の理想像を考える

Tags: ロールズ, 正義論, 秩序だった社会, 倫理, 政治経済, 授業のヒント, 社会哲学

ロールズが目指す『秩序だった社会』とは? 『正義論』の理想像を考える

ジョン・ロールズの『正義論』は、公正な社会の原理を見つけ出すことを目的としていますが、その探求の最終的な目標は、そのような公正な原理に基づいた「秩序だった社会(well-ordered society)」の実現にあると言えます。では、「秩序だった社会」とは具体的にどのような社会なのでしょうか?

この概念は、『正義論』が描く理想的な社会像であり、生徒がロールズの議論全体像を理解する上で非常に重要なポイントです。ここでは、「秩序だった社会」の特徴と、なぜロールズがこの社会像を目指したのかを解説します。

「秩序だった社会」の3つの特徴

ロールズの考える「秩序だった社会」は、主に以下の3つの重要な特徴を持っています。

  1. 公的な正義原理の共有: その社会の誰もが、同じ公正な正義原理を受け入れており、また、他の誰もがその原理を受け入れていることを知っています。これは、社会を規律する基本的なルールについて、市民の間で公的な合意がある状態を意味します。 (例:学校のルールが生徒会の話し合いで公正に決められ、全員がそのルールを知り、納得している状態に近いかもしれません。)

  2. 社会の基本構造の公正さ: その社会の基本的な制度(憲法、法律、経済システムなど)が、これらの正義原理を満たしていると公的に知られている、あるいは信じるに足る理由がある状態です。つまり、社会の仕組みそのものが公正であると皆が認識しています。 (例:テストの採点基準が事前に明確に示され、その基準通りに公正に行われていることが生徒に理解されている状態。)

  3. 市民の正義感覚: 社会の市民が、通常、公正な正義原理に従って行動しようとする正義感覚を持っています。彼らは単にルールに従うだけでなく、そのルールが公正であることから、内発的にルールを守ろうとします。 (例:誰も見ていなくても、ゴミを決められた場所に捨てる、困っている友達がいれば助けるなど、単なる規則遵守以上の倫理観に基づいた行動。)

これらの3つの特徴が揃った社会が、ロールズの言う「秩序だった社会」です。このような社会では、人々は公正なルールのもとで互いに協力し、共通善を追求することができます。

なぜロールズは「秩序だった社会」を目指すのか?

ロールズが「秩序だった社会」を理想像として重視するのは、それが安定した公正な社会を維持するための鍵だと考えるからです。

『正義論』で展開される「原初状態」「無知のヴェール」「正義の二原理」といった議論は、まさにこの「秩序だった社会」をどのように構想し、その正当性を確立するか、という大きな問いに答えるためのものだと言えます。

授業での問いかけのヒント

生徒に「秩序だった社会」の概念を理解してもらうために、以下のような問いかけが考えられます。

ロールズの『正義論』は複雑ですが、「私たちが目指すべき公正な社会とは、皆が納得できるルールのもとで、互いに協力し、それぞれが自分らしく生きられる『秩序だった社会』なんだ」というゴールを示すことで、生徒はロールズの議論が何のために行われているのか、その大きな目的を掴みやすくなるはずです。

この「秩序だった社会」という理想像を理解することは、その後のロールズの議論(特に「安定性」や「公共的正当化」に関する議論)への橋渡しにもなります。ぜひ、授業の中でロールズの目指す社会像に触れてみてください。